iBeaconを使ったマーケティングが進まない5つの理由

2013年のiOS7でサポートされたブルートゥースBLEを使った技術iBeacon。iPhoneにiBeacon対応のアプリを入れておくと、そのiPhoneを携帯した客が、店舗のフロアを動き回るとフロアに何箇所か設置されたビーコンをiPhoneが拾って気の利いたメッセージやクーポンがでるみたいな使い方が紹介されていました。実際2014年になると実験も行われたり、アンドロイドのスマホも対応とか、一応2015年にはANAアプリが羽田空港で対応なんてニュースもありますが2年たってもそんなもんです。
いまだにマーケティングでiBeaconを賛美する人を見かけますが、そんなビッグマウスの人ってiBeaconの仕組みやアプリ開発ぜんぜんわかってないなと思います。iBeaconを使ったマーケティングが進まない理由を5つにまとめてみました。
 
理由1)iBeaconはなりすまし可能
iBeaconのビーコンはProximity UUIDという識別子を持っています。本来1台に1つになるはずですが、このUUIDを簡単に傍受して、手持ちのiBeaconにそのUUIDに設定してなりすますことが原理的に簡単にできます。これの何がまずいかっていうと、アプリを騙すことができるってこと。たとえば来店しないとでないクーポンを来店したことにして出したりできます。ですので、iBeaconをきちんと理解していないマーケティングの人が口にする「iBeaconでクーポン表示すればいい」なんて金に絡むアイデアは使えません。
 
理由2)アップルの審査基準の厳しさ
自分も味わったのですが、アップルのiBeaconに対するアプリの審査は厳しいです。審査チームによっては甘いのですが、わたしのアプリを担当したチームは厳格で頑固でした。たとえば先述のUUIDですが、利便性を良くするためにアプリで設定できるようにしたら、UUID設定可能=なりすまし機能とみなされ、アプリの基準に違反しておりリジェクトだと言われました。(利便性のためだと食い下がったら国際電話で会議になり、直接アップルの審査の人に生で言われました)これって、マーケティングの実用面で考えても、なりすまし防止のためにイベントやキャンペーン毎にUUIDを変えたりできないってことなんですよね。その度に別のアプリをリリースすることになります。特定の期間のイベント向けのアプリが目立つのはそんな理由です。iBeaconをきちんと理解していないマーケティングの人に乗せられて、アプリを開発したら審査に通らなかったなんてめに会いかねません。
 
理由3)iOSの仕様やポリシーの変更の多さ
iOSのiBeaconのライブラリや審査基準が何度も変わっています。たとえばiOS7時代に作成したiBeaconアプリはiOS8で動かなくなり、iOS8時代にiOS7とiOS8で動作するように作成したiBeaconアプリはiOS9で動かなくなりました。基本的にはiPhoneユーザーの知らない間にアプリがビーコンをキャッチして位置を含むプライバシーを引っこ抜いてマーケティング情報としてサーバーに送信なんてできないようにプライバシー強化している点は賛同できるんですが、アップルの一方的な変更でアプリが突然動かなくなるので、年中動作確認や改修にかけるコスト、突然動かなくなった時のサービスや企業ブランドへのダメージなど、商用利用を難しくしています。アプリの申請なんかしたことがないマーケティングの人は、このようなところのコストをまったく気づいていません。
 
理由4)iBeaconのできることがしょぼい
冒頭に書いたとおりiBeaconってのはブルートゥースの電波を使って、アプリがその弱い電波を検出することにより、エリア(リージョン)に入ったとか出たとか、距離を測ったりできる技術です。ところがiOSがイマイチでエリアへの出入りを検出して、しかるべきアプリのプログラムを呼び出すのをミスることが100回に1回ぐらいあります。同じUUIDで別のアプリを同時に動かしていると、片方のプログラムだけが、正しく呼び出されていて、両方とも呼び出されないことはないので、あきらかに電波のせいではなく、iOSがアプリの呼び出しに不具合があるようです。iOS7からバージョンがあがっていってますが、今の所この症状はかわりません。これを解決するために距離(レンジング)を測るコードを追加しているアプリもあります。ちなみにiBeaconの距離を測る機能って、使い物になりません。わたしの経験では1〜2mぐらい誤差があり、しかも方角がわかるかのように見せているアプリがあり、iBeaconがわかっていないマーケティングの人はすっかり信じていますが、電波の強弱で測っているので方角はウソです。メッシュ状にたくさんのビーコンを立てて、UUIDの変化から割り出すなんてことをすればわからなくはないですが。
 
理由5)バッテリーの持ちが悪くアプリが嫌われる
これがiBeaconがわかっていないマーケティングの人がもっとも見逃している点かもしれません。GPSもそうですが位置情報をアプリがずっと検出するとバッテリーの持ちが悪くなります。実際、アップルの審査でも「このアプリはバッテリーの持ちが悪くなります」と書かないとリジェクトされました。本来はエリアへの出入りだけの検出ならそんなに悪くならないのですが、先ほど書いた通り精度を上げるためにレンジングを追加したアプリのバッテリー消費は本当に悪いです。iBeaconがわかっていないマーケティングの人は、できることにばかりに目がいって、悪くなることに気づいていなのですが、バッテリーが持たないアプチってユーザーがインストールしてくれないとか、すぐ削除される運命にあり、そんなアプリでマーケティングは無理です。